朝晩の空気がひんやりしてくると、そろそろ干し芋の季節がやってきます。こたつでお茶と一緒に、ちょっとずつかじる干し芋。素朴なのに、なぜかやめられないおいしさですよね。
今回の産地めぐりは、その干し芋のふるさと、茨城県へ。全国で作られる干し芋の約9割が茨城県産といわれ、なかでもひたちなか市・東海村・那珂市の一帯が大きな産地になっています。どうしてこの地域が干し芋の町になったのか。どう選べば、もっとおいしく楽しめるのか。今年の干し芋シーズンが始まる前に、まとめておきます。
干し芋は静岡生まれ、茨城育ち
意外に思われるかもしれませんが、干し芋が生まれたのは静岡県です。江戸時代、静岡の地で、さつまいもを煮て薄く切り、干して作る方法が考え出されたのが始まりとされています。日持ちがよく、いつでも手軽に食べられることから、関東へも広がっていきました。
茨城で本格的に作られるようになったのは明治時代の後半です。1908年(明治41年)、現在のひたちなか市にあたる湊町でせんべい屋を営んでいた湯浅藤七さんが干し芋づくりを始め、同じころ阿字ヶ浦の小池吉兵衛さんも製造に取り組みました。お二人が広めた作り方をきっかけに、干し芋は農家さんや漁業に携わる方の冬の仕事として根づき、今の一大産地へと育っていったのです。
戦争中にはさつまいもが主食として回され、干し芋づくりが途絶えた時期もありました。それでも戦後にふたたび作られるようになり、冬の風物詩として受け継がれています。
なぜ茨城の海沿いが干し芋に向いているの?
干し芋づくりには、芋を育てる「畑」と、芋を干す「冬の空」の両方が大切です。
まず畑。ひたちなか周辺には、水はけのよい砂地を含む土が広がっています。さつまいもは水はけのよい土地を好むので、原料となる芋がよく育ちます。
そして冬の空。この地域の冬は晴れの日が続きやすく、昼と夜の気温差も大きくなります。蒸した芋を外の空気にさらしてじっくり乾かすのに、ちょうどよい条件がそろっているのです。そのため干し芋の出荷は、おおむね11月から翌年3月中旬ごろが中心になります。
秋に掘ったお芋をしばらく貯蔵して甘みをのせ、冬の晴れ間に干していく。干し芋は、収穫から冬まで時間をかけて仕上がる、まさに季節の食べものなんですね。
品種で選ぶと、干し芋はもっと楽しい
干し芋のパッケージを見ると、品種名が書かれていることがよくあります。茨城でよく使われる代表的な品種を3つ、くらべてみましょう。
- たまゆたか(玉豊):茨城の干し芋でもっとも一般的な品種。半世紀ほど親しまれてきた、いわば干し芋の定番です。あっさりした甘さで、昔ながらの干し芋らしい味わいを楽しみたい方に。
- いずみ:濃い甘みとやわらかな食感が特徴。育てるのも加工するのも難しく、出回る量が少ないため「幻の品種」と呼ばれることもあります。見かけたらぜひ試してみてください。
- べにはるか(紅はるか):焼き芋でもおなじみの人気品種。干し芋にすると黄金色が美しく、ねっとりとした甘さが楽しめます。
はじめての方は、まず「たまゆたか」と「べにはるか」を食べくらべるのがおすすめです。同じ干し芋でも、甘さの強さや歯ごたえがずいぶん違うことに驚くはずです。
わたしは、食べるならべにはるか派です。ネットリした甘さが口に残って、1枚でも満足感があります。たまゆたかのあっさりした味も、食べ飽きなくて好きです。
また、形にも種類があります。平たく切って干す「平干し」、小ぶりの芋を丸ごと干す「丸干し」、角切りにしたタイプなど。丸干しは厚みがあるぶん、もっちりとした食べごたえがあります。
白い粉はカビ?上手な保存と食べ方
干し芋の表面に白い粉がついていて、ドキッとしたことはありませんか。これは「白粉(しろこ)」と呼ばれ、芋の糖分(麦芽糖)が結晶になったものです。食べても心配はなく、なめるとほんのり甘く感じます。
ただし、カビとの見分けは大切です。目安は次のとおりです。
- 白粉:サラッとした粉状、または細かいツブツブの結晶状
- カビ:青・茶・赤などの色がついた斑点がある、白くても綿毛のようにフワフワしている、カビ臭いにおいがする
カビが少しでも見つかったら、その部分だけ取り除いて食べるのは避け、まるごと処分しましょう。
しっとりやわらかい干し芋ほど水分が多く、カビが生えやすくなります。開封したら早めに食べきり、すぐに食べきれない分は1回分ずつラップで包んで冷凍しておくと安心です。
食べ方は、まずはそのままが一番。少し硬くなったものは、トースターやフライパンで軽く温めると、香ばしさと甘みがよみがえります。細かく刻んでパウンドケーキやシフォンケーキの生地に混ぜたり、かき揚げにしたりと、お料理にも使えます。
わたしのお気に入りは、トースターで表面が少しぷくっとふくらむまであぶる食べ方。外は香ばしく、中はとろっとして、別のおやつのようになります。
おうちで小さく干し芋づくり
晴れた日が続く季節には、おうちで少しだけ作ってみるのも楽しい芋活です。
- さつまいもを皮つきのまま、竹串がすっと通るくらいやわらかくなるまで蒸します。
- 熱いうちに皮を厚めにむき、両端も少し厚めに切り落とします(えぐみが出やすい部分です)。
- 縦に1cmほどの厚さに切ります。包丁だとくずれやすいので、糸を使うときれいに切れます。
- 重ならないようにザルに並べ、風通しと日当たりのよい場所で1週間ほど干します。
- ザルから自然にはがれるようになったら裏返し、両面を乾かします。
干す日数が長いほど硬めに、短いほどやわらかめに仕上がります。お好みの食感を見つけてみてくださいね。
はじめて家で干したときは、曇りの日が続いてなかなか乾かず、ひやひやしました。天気予報で晴れが続く日を選んで始めるのがいちばんのコツだと思います。
農家のひとこと
うちの畑でも、秋に掘ったお芋が干し芋になるのを冬の楽しみにしています。熊本だと中々外で乾燥させる気候が揃わないので、家庭用の乾燥機を使用しています。寒い日に食べる干し芋は、やっぱり格別です。



